令和6年度 施政方針

更新日:2024年02月26日

令和6年2月26日、第121回養父市議会(定例会)に市長が説明した施政方針を全文掲載します。

はじめに

本日、第121回養父市議会定例会を開会いたしましたところ、議員の皆さま方におかれましては、ご健勝にてご出席賜り、令和6年度予算案を始めとする市政の重要課題につきまして、ご審議いただきますことに感謝し、厚くお礼申し上げます。

昨年は、本市出身で阪神タイガースの坂本誠志郎選手が、チームの要である捕手として、38年ぶりの日本一に大きく貢献するという嬉しく輝かしいニュースがありました。彼の活躍は養父市民に元気と勇気、希望を与えてくれました。今後も、更なる高みを目指し、日々の鍛錬を積まれ、私たちに再び夢と感動を届けてくださることを期待しております。

それでは、令和6年度の各会計予算を始めとする諸議案のご審議をいただくに当たり、市政運営につきまして、所信の一端と、重点施策の概要を申し述べ、議員各位並びに市民の皆さまにご理解とご協力をお願い申し上げたいと存じます。

能登半島地震

本年1月1日夕刻に発生した能登半島地震は、マグニチュード7.6、震度7という大規模なもので、家屋の倒壊や火災、地崩れや津波などにより、2月20日現在で241名の方が亡くなられました。ここに犠牲になられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

現地では道路の陥没や法面の崩壊、広域的な大規模停電、上下水道の使用不能に加え、倒壊した家屋や家財道具などが未だ路上に散乱するなど、復旧・復興の大きな妨げになっており、今もなお12,463人以上の被災者が避難所生活を余儀なくされている状況です。

厳しい寒さの中、また、余震に不安を募らせる中にあって、大切な人を失い、耐え難い悲しみと苦しみ、深い喪失感にさいなまれ、やり場のない気持ちで避難所生活を送っておられる多くの方々のことを思うと胸が痛みます。

そのような状況の中、関西広域連合のカウンターパート方式で、兵庫県は石川県珠洲市を支援することとなり、養父市も兵庫県と連携しながら、発災後からの、いち早い被災地支援を模索してまいりました。その後、兵庫県との連絡・調整を経て、養父市と災害時の協定を結ぶ山本運輸株式会社様の所有する移動式ランドリー車1台を、珠洲市に派遣することを決定しました。1月24日から避難所の一つである珠洲市立上戸小学校にて9槽の乾燥機能付き洗濯機を無料で稼働し、今なお断水で不自由されている被災者の生活支援を行っております。

毎日60~80人の利用者があり、これまで雨水を溜めて洗濯するなど、普段の暮らしと大きく異なる不便な生活を送っておられる利用者からは、多くの感謝の言葉をいただいております。

過疎地域を直撃した今回の能登半島地震において、能登半島の早期の再生・復興が進まなければ、若者を始めとする全世代にわたる人口流出に拍車がかかり、過疎化は急速に進行する恐れがあります。その姿は、同じ過疎地域であり、人口減少・少子化という課題をいかに解決しようかと悩み、考え、努力を続けている但馬地域の姿と重なるものがあります。このため、国を挙げて、能登地方の創造的復興が一日も早く成し遂げられることを強く願うものです。

能登半島の復興が叶えば、それは全国の過疎地域の地方創生の希望となり、モデルになると考えています。

これらのことを踏まえ、養父市では、今後も、被災地の一日も早い復旧・復興に向けて、必要とされる支援を官民一体となって迅速に提供するとともに、被災地に寄り添った息の長い支援を継続していく考えです。

また、市民の皆さまには、災害義援金等でご協力いただきましたことに対しまして、厚くお礼申し上げます。今後も様々な形での被災地支援が必要となりますので、引き続きご協力をお願いいたします。

市制20周年の歩み

令和6年度は、平成16年4月に養父市が誕生してから、20周年を迎える年であります。

振り返れば、この20年間、養父市は企業誘致や事業所支援による雇用創出、子育て支援、移住・定住促進、保健・医療・福祉の充実、農林業の発展、観光振興、道路や下水道、情報などの生活インフラの整備、芸術文化・スポーツ、教育の振興、防災・消防の強化、さらには、コロナ禍での感染症対策・経済対策や市民生活支援、地域コミュニティの醸成、少子化、人口減少に歯止めをかける取組など、直面する幾多の課題や困難に対し、絶えず挑戦の姿勢で立ち向かってまいりました。

中でも、この大切な地域を守り、未来の世代につなぐために始めた国家戦略特区への挑戦により、自治体名すら正しく読んでもらえなかった養父市は、その名を全国に知られる存在になったとともに、養父市の意欲的、革新的な取組に新たな息吹を感じ、養父市で先進的かつ挑戦的な取組を始める企業の参入も見られるようになりました。

しかし、こうした努力にもかかわらず、人口減少、少子高齢化は急速に進行し、今後、経済活動の縮小や地域コミュニティの衰退、あらゆる分野の担い手の減少など、社会的、経済的にも様々な影響を引き起こすことが一層懸念されるなど、養父市の前には、今もなお非常に大きな壁が立ちはだかっています。

高く、強固な壁は、長い年月をかけて少しずつ形作られたもので、たやすく壊せるものではありません。しかし、これらの壁は、人が作り上げたもの、又は、自分自身が心の中に作ったものに他ならないのです。市民の皆さまの英知と力を集めれば、壊すことができない壁ではありません。

市民共創と官民協働による地方創生を実現するために、市民一丸となって、養父市の前にそびえる幾多の、高く、強固な壁を壊す取組に果敢に挑戦していく所存です。

世界情勢と日本経済、国政の動き

さて、世界に目を向けますと、ウクライナやイスラエル・ガザ地区等での紛争による影響や、長引く資源エネルギーや小麦などの穀物の価格高騰のほか、中国の経済懸念、中東情勢、金融市場の変動の影響などにより、インフレ、円安・ドル高など国民生活にも大きな影響が表れています。

こうした現状を踏まえて、1月26日に開会された第213回通常国会における、岸田首相の施政方針では、「『経済の再生』が岸田政権の最大の使命」であり、今年中に、物価高を上回る賃上げを実現する、との目標が打ち出されました。 また、明日は今日よりも良くなると誰もが感じられるような国を目指し、政策を進めていくと強く語られました。

方針の中で、人口減少問題に対しては、こども・子育て施策、女性の活躍の後押し、認知症への対応などにより、包摂的な共生社会を実現するとともに、デジタル行財政改革を進め、「いま政府ができることはすべてやる」との構えで全力を挙げるとの決意が表されました。

また、地方創生については、観光地・観光産業の高付加価値化と地方部への誘客の強化、農業が直面する課題の克服を地域の成長へとつなげるための農政の抜本的な見直し、防災・減災、国土強靭化、地域での資源循環の強化等に取り組み、観光や農業などの基幹産業の発展を支援し、安心して暮らせる地域を守り抜いていくことが謳われています。

兵庫県政の動き

兵庫県においては、2月8日に示された令和6年度当初予算案において、「『個』の可能性を広げることにより、地域の持続可能性を高める」ことを重点とし、「若者・Z世代が輝く兵庫」、「活躍の場が広がる兵庫」、「安全安心に包まれる兵庫」を「兵庫の新たなステージ」として施策を推進するとともに、県政改革に引き続き取り組むこととしています。

斎藤知事は「特に若者世代の“個の力”を磨いていくことで“個の力”がみなぎる兵庫にし、だれもが望む学び方や働き方、暮らし方ができて、夢を持って自分の物語を歩んでいける兵庫づくりを目指したい」と語っています。

こうした国・県の動向等を見極めながら、養父市では、市民に対し、最大限の成果を生み出すことができますよう、令和6年度の市政運営に全力で取り組んでまいりたいと考えています。

1 市政運営の基本方針

それでは、令和6年度の市政運営の基本的な考え方につきまして、述べさせていただきます。

 

民間有識者らで構成する「人口戦略会議」は、1月9日に2100年を視野に入れた長期の人口戦略を取りまとめた提言書「人口ビジョン2100」を岸田首相に提出しました。

提言書では、歯止めのかからない人口減少、少子化への危機感を示すとともに、3つの基本的課題として「国民の意識の共有」「若者、特に女性の最重視」、「世代間の継承・連帯と『共同養育社会』づくり」の3点を示しています。

その上で、2100年に8,000万人で人口が定常化することを目標に、人口減少スピードの緩和を図り、最終的に人口を安定させながら、現在より小さい人口規模であっても、多様性に富んだ成長力のある社会を構築することにより、国民一人ひとりにとって豊かで幸福度が世界最高水準である社会の実現を目指すことを掲げています。

少子化、人口減少問題は、養父市においても、最大かつ喫緊の課題であり、持続可能な養父市を次世代へつなぐためにも、これまで以上の決意と覚悟を持って臨まなければなりません。

これには、行政だけでなく、地域や市民も、世代を超えて、また官民の垣根を越えて、危機感を共有し、自分事として、当事者意識を持って、主体的に自分たちのまちの未来に向けて取り組むことが必要であり、地域や市民にも、行政と同じように決意と覚悟が求められています。

人口ビジョン2100でも、これまでの対応で欠けていた取組として、人口減少がもたらす重大な事態への国民の意識の共有が挙げられています。誰しも事態を正確に理解しない限り、行動は起こさないことから、情報共有を最優先で取り組むべき課題としています。

少子化・人口減少がもたらす影響は、地域経済・産業活動の縮小、地域コミュニティの衰退、様々な分野における担い手不足など、長期的かつ多岐にわたることが想定されます。

こうしたリスクを可視化し、市民全員で共通認識を持ち、対処していくことで、リスクによる影響(被害)を最小限に抑えることができます。リスクは、防災、公共施設・インフラ、情報セキュリティ、環境など様々な分野に潜んでおり、これらのリスクを可視化する取組を進めてまいります。

市では、これまで各種審議会やタウンミーティングなど機会を捉えて、人口減少の実態とそのことがもたらすリスク等について伝えてきましたが、今後もリスクの可視化という意識の下、現状分析や課題抽出など情報共有を図り、市民の皆さまや関係者の協働と参画を得ながら、課題の早期解消とリスクの軽減化に取り組んでまいります。

次に、若者や女性が希望を持てる環境づくりです。

人口ビジョン2100でも、少子化の流れを変えるためには、若者世代、特に育児負担が集中している女性が、未来に希望が持てるようになることが重要であると提言されています。

結婚やこどもを産み育てるかどうかは、あくまでも個人の自由な選択によって決められるべきことであり、その自由な意思は尊重されなければなりません。そうした基本認識の下、自然人として、結婚やこどもを産み育てることに喜びと意義を見いだし、希望を抱く若者が、その希望を実現できる社会環境づくりを積極的に進めていく必要があります。

養父市では、これまで結婚やこどもを産み育てることを希望する人たちが、安心して結婚、出産、子育てができるように、国の提言書を先取りする形で、伴走型相談支援、経済的支援、不妊治療、産後ケア、ひとり親支援、育児・保育・教育などあらゆる場面での多様で、きめ細かな子育て支援策を切れ目なく講じてまいりました。

令和6年度においても、これらの支援策は継続、拡充してまいりますが、若者世代の結婚やこどもを産み育てる意欲の低下は、経済的要因を始め、様々な要素が複雑に関わっており、これらを根本的に解決するには、所得の向上や雇用の改善、働き方改革、慣例的な男女の役割分担意識の解消など、社会経済全般にわたる確実な意識の転換と構造的な改革を進めていく必要があります。

小さな過疎地の自治体でできることには限りがありますが、このまま手をこまねいていては、止めどもない縮小を招きます。

生まれ、育ち、学び、愛する、何ものにも代え難い大切なこのまちをしっかりと将来世代に引き継ぐことこそ、今を生きる私たち世代に課せられた使命なのです。私たちは、その強い思いを情熱と真摯という掌で大切に抱きかかえ、市民や事業所などと意見交換や議論を行い政策に反映させてまいります。

令和6年度は、1つの節目として市制20周年を迎えます。

平成16年4月1日に合併し、平成21年3月制定の養父市まちづくり基本条例に定める市民や事業者の皆さまのほか、多方面の方々の関わりや支えにより、今日があります。

人でいうと二十歳のつどいを迎え、新たな一歩を踏み出す節目に当たる年でもあります。

これまでの歩みは、合併時の新市まちづくり計画から、第1次総合計画、第2次総合計画、養父市まちづくり計画と皆さまとともに未来を創造し、進むべき方向を検討し、その実現に向け努力を重ねてきた足跡でもあります。

近年、「VUCA(不確実で複雑、不透明で曖昧)の時代」という言葉がよく使われますが、あらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、次々と起こる想定外の出来事と相まって、将来の予測が困難な社会情勢にあることを肌身に感じています。

しかしながら、将来を担うこどもたちが希望を持てる「今」と「未来」を、今を生きている我々が創っていかなくてはいけないと強く思っているところです。

このため、改めて、人口減少、少子化対策に不退転の決意で取り組むことを市政運営の基本的な柱とし、養父市まちづくり計画「やぶ2050~居空間構想~」の実現に向けて、「住み続けたい」「住んでみたい」と思ってもらえる、選んでもらえるまちづくりへの過程を市民の皆さんとともに歩むことができればと考えております。

また、計画に込めた普遍的な想いを継承するため、「市政のテーマ」は昨年度と同じく、「未来の養父市をデザインする ~心ときめく快適な社会の創造~」といたしました。

加えて、「社会的処方の推進」、「女性活躍の推進・子育て環境の充実」、「デジタル技術の活用」の3つの柱を重点的な政策として位置づけ、全部局で横断的に取り組むことといたします。

2 予算編成の基本方針

次に、令和6年度の予算編成の基本方針につきまして、ご説明申し上げます。

 

養父市まちづくり計画に基づく予算編成として3年目、市制20周年を迎える令和6年度予算は、引き続き「居空間構想」の実現に向け、養父市に住む全ての人々が心の豊かさと経済的、物質的豊かさを享受し、安心して住める居心地の良い快適なまちづくりを推進するものといたします。

一般会計については、令和6年度の当初予算額は、前年度予算額205億円に対しまして、3.0%減の198億8,800万円を計上しております。

歳入につきましては、約半分を占める地方交付税について、1.1%増となる90億3,000万円を見込んでおります。

市税につきましては、市民税が定額減税の実施に伴う減収、固定資産税が評価替えの年に当たることなどから減額となることを見込み、5.7%減となる22億400万円を計上しています。

また、地方特例交付金につきましては、定額減税の実施に伴う減収分として増額交付される額を計上しております。

歳出につきましては、関宮地域局周辺整備事業、橋りょう長寿命化対策事業、自動運転バス運行事業などが主だったものとなっております。

次に、特別会計についてでありますが、令和6年度当初予算額は、前年度予算額77億9,100万円に対しまして、4.9%減の74億900万円を計上しております。

企業会計についてでありますが、令和6年度当初予算額は、前年度予算額48億2,700万円に対しまして、26.3%減の35億5,600万円を計上しております。減額の主な要因は、令和5年度は、企業債の繰上償還を計上していたことによるものであります。

この結果、一般会計と特別会計、企業会計を合わせた予算の総額は前年度の当初予算総額331億1,800万円に対しまして、6.8%減の308億5,300万円を計上しております。

3 主要な施策

それでは、3つの重点的施策に基づいて、その概要をご説明申し上げます。

 

(1)「社会的処方の推進」

1つ目の重点施策は、社会的処方の推進です。

社会を取り巻く環境は、年々複雑化、多様化し、また想定外のことが多く発生し、さらには価値観が多様化し、物事や問題の解決に向け明確な「解」が得られない、難しい時代になっています。こうした中で、今は、多くの人々が生きづらさや孤立、孤独、悩みを感じやすい社会であると言われています。「人が健康でいかに心豊かに生きるか」は、国民的・国家的な課題ともなっています。

このような状況を踏まえ、令和3年10月に策定した養父市まちづくり計画「やぶ2050~居空間構想~」では、物質的、経済的な豊かさだけでなく、これまで培ってきた伝統、文化・芸術、産業を活かして多様なつながりや新しい価値を生み出し、「快適」で心地良い空間を創出することで、潤いや安らぎから得られる心の豊かさ、本質的な豊かさを生み出していくこととしています。

その一環として、令和4年度から「社会的処方」の取組を始めています。これは、人々が孤立や生きづらさを感じる状況の中で、社会とのつながりを処方することにより、個々が抱える孤独化、孤立化などの問題を解決しようとするものです。

また、社会的孤立をはじめとして、生きる上での困難・生きづらさはあっても既存の制度の対象となりにくいケースや、いわゆる「8050問題」やダブルケアなど個人、世帯が複数の生活上の課題を抱えるなど、福祉ニーズは複雑化、複合化しています。

従来の行政支援に加え、属性を超えた支援体制を構築するため、「社会的処方」の考えを取り入れ、相談支援、参加支援、地域づくりに向けた支援を一体的に実施する「重層的支援体制事業」による、包括的な支援体制の構築を目指しています。これは、本人主体の観点を最優先に、地域のあらゆる人・活動が分野を超えてつながり、当事者と支援者が互いに関わりを持ちながら、重層的に支援していくことで、人々の健康や幸福につないでいく取組でもあります。

こうした取組が広く深く社会一般に浸透することにより、市民の心の安らぎや活力の増進が図られ、まちの活力へとつながり、人口減少下における持続可能な養父市の実現につながるものと考えています。

「社会的共通資本」という概念を唱えた経済学者 宇沢弘文 氏は、社会的共通資本としての「医療・教育」と、人々を孤立から守り社会とつなげる社会的包摂機能を持つとされる「文化・芸術」とを協調・融合させることで、人々が生き生きと心豊かに暮らせる社会につながる、とする考え方を説かれています。

こうした考え方を基に、昨年12月、現代の社会的な課題を解決するための方法論として、医療、文化・芸術、経済の異なる分野の専門家が協働した活動が必要と考え、それぞれの分野に精通し、志を同じくする学識者の方々の参画を得て、「一般財団法人 医療文化経済グローカル研究所」を設立いたしました。

この研究所と連携し、活動を支援しながら、胎児期から老齢期までの、その時々の生活環境を改善することで「健康加齢(ヘルシーエイジング)」を促進してまいります。健康加齢の実現により、全ての市民が「幸福」を享受でき、快適で安心できる、住み心地の良い(ウェルビーイングな)まちづくりを目指します。

今後、研究所では、持続可能なまちづくりを行う上で地域が抱える各種課題等について、学術的な立場からの調査研究が進められ、科学的根拠に基づいた、課題解決に向けての有効な施策が提言されることを期待するものです。

令和6年度も、受け手支え手という立場を超えて、誰もがつながりや生きがいを持てる地域共生社会の実現に向けて全力で取り組んでまいります。

 

(2)「女性活躍の推進・子育て環境の充実」

2つ目の重点政策は、女性活躍の推進と子育て環境の充実です。

女性の活躍推進は、持続可能な養父市づくりにおける喫緊の課題ともいえます。

女性が活躍する養父市となるために、曖昧に捉えている要因を具体的に洗い出し、若い女性が住むまちとして自ら選択し、女性が個性を発揮しながら活躍できるまちづくりを進めることが必要であると考えています。

こどもを産み育てることに喜びを持てる環境と仕事の中で自己実現を図ることができる環境のバランスは、周囲の理解と協力は言うまでもなく、社会全体に存在する無意識の偏見や固定観念を一つ一つつまびらかにし、偏見や固定観念を払拭するために支障となっている事象や問題点等を共有し、偏見や問題点等の解決に向け、市民全員でともに考え、行動することから始めなければなりません。

残念ながら、養父市には個々の性に関わりなく「女性はこうあるべき、男性はこうあるべき」との枠にとらわれた考えが地域や生活の中に根強く浸透しており、目に見えない圧力となって、女性の主体的意識や行動を抑圧し、束縛する同調圧力となっていることは明らかです。

また、反面、養父市の女性自身も、活躍と制約、固定観念の狭間で、自身の能力を発揮する機会をあきらめ、意思を働かせることなく過ごしてきた事実があること、そのことが社会的な大きな損失になっていること、さらには、今まで、曖昧にしてきたことが、現在の人口減少・少子化を招き、健全かつ自立的、持続可能な将来へ向けてのまちづくりの大きな課題となっていることにも気づき始めています。

しかし、女性活躍、多様性の具現化への壁は厚く、多方面からの多様な施策の取組により、壁を壊す努力を重ねることが必要です。養父市では、今後、女性活躍の推進を真のダイバーシティ(多様性)と、未だ成果の見えない少子化対策への大きな突破口となるよう、また、市民と女性自身の気づきと行動が促されるよう、これまでの既成概念を取り払い、大胆かつ挑戦的な取組を推進します。

兵庫県では、令和6年度から、同性カップルなどが抱える日常生活の困りごとや不安の解消につなげるため、「兵庫県パートナーシップ制度」の導入に向けて諸手続を進めています。

養父市でも、県の制度導入を見据えながら、性的マイノリティの方々が暮らしやすい環境づくりに向けて全庁で検討していきます。

 

次に、子育て環境の充実です。

今、この瞬間にも、貧困によって、日々の食事に困るこどもや、自覚なしにケアラーとしての日々を過ごしているこども、学習の機会や部活動・地域クラブ活動に参加する機会を得られないこども、進学を諦めざるを得ないなど、非常に困難な状況の中で生きているこどもがいます。

家庭の所得格差から生じるこのような状況は、経済的な面だけではなく、心身の健康や衣食住、進学機会や学習意欲、前向きに生きる気持ちを含め、こどもの夢や希望の実現を困難にするとともに、社会的孤立にもつながる深刻な課題となっています。こどもたちが描く未来や夢が、生まれ育った家庭や様々な事情を理由に絶たれることがない社会をつくらなければなりません。

こうした困難な社会課題を少しでも解消するため、「こどもまんなか社会」を合言葉に、令和6年度からこども食堂の運営支援を行います。こども食堂は、こどもへの食事の提供だけでなく、誰かと一緒に食事ができることや、地域の人とつながりができること、さらには食育の場としても大きな意義を持っています。

こども食堂が、こどもたちに元気や勇気、希望を与え、地域の多様な人とのつながりにより地域への愛着が育まれるとともに、地域社会全体でこどもを育てていく機運につながることを期待するものです。また、こどもだけでなく、世代を超えた地域の人々のコミュニティの場、くつろぎの場になることを期待しています。こども食堂について積極的に取り組んでいただける方、関心を示していただける方々にお集まりいただき、それらの方々との連携を深め進めていきたいと考えています。市民の皆さまのご協力をお願いいたします。

さらに、令和6年度から、こどもの良質な成育環境の充実を図るため、「こども誰でも通園制度」を実施いたします。この制度は、全ての子育て家庭の働き方を問わず時間単位でこども園を利用できる制度で、他のサービスと併せ、こどもと保護者一人ひとりの希望に沿った、柔軟な子育て支援ができるものと考えております。

また、医療的ケア児受入支援事業は、こども園で医療的ケアを必要とするこどもを保育する専門の看護師や保育教諭を配置することで安心してこども園を利用することができ、保護者と子どもの心身の負担軽減や、集団生活の中でこそ育まれるこどもの生きる力を育てることが図られるものと考えています。

このほか、新たな社会問題となっているヤングケアラー対策として臨床心理士を増員するなど、更なる相談機能の強化を図るとともに、開設2年目となる「ほっとステーション」利用家庭の相談支援にも当たることとします。

 

(3)「デジタル技術の活用」

3つ目の重点政策は、デジタル技術の活用です。

私たちが住む世界は、デジタル技術が世界規模で急速に進展するデジタルグローバルの時代であり、デジタル社会とは、国籍、人種、思想、信条、世代、性別、障がい、教育、貧富など、あらゆる格差を解消し、そこでは社会の変革(イノベーション)が起き、文化、産業、個人の価値観や生き方を一変させていく社会でもあります。

これまで、養父市では、デジタル技術の活用により、単に行政手続の簡便化、情報管理・共有の効率化といった行政事務の効率化を目指すのではなく、市民の快適で豊かな社会の実現に向けて、また、時と場所を選ばずに、市民が日常生活や社会参画ができることを目指して、様々な施策に取り組んでまいりました。

その一つとして、国のポータルサイトであるマイナポータルを活用した行政手続のオンライン化については、優先的にオンライン化を推進すべき手続として国が示す手続は、現在のところ27手続であるのに対し、養父市では既に48の手続が行えるようにするなど、市民の利便性や行政サービスの質の向上、快適な生活の実現を目指し、オンライン手続を積極的に進めています。

このほか、市民の健康長寿、社会的処方を取り入れた、人と人とのつながり、地域との支え合いによる快適な社会を、デジタル技術を活用し実現するため、令和4年度から「養父市デジタルヘルシーエイジング事業」に取り組んでいるほか、令和5年度には、91%という、市区町では最も高い保有率となっているマイナンバーカードを活用し、オンライン投票や避難所運営の仕組みを構築しているところです。

また、令和6年度には、デジタル田園都市国家構想推進交付金タイプ3 高度AI利用型に応募し、認知機能低下対策事業に取り組みます。脳活動測定、社会生活状況、国保データベースのデータなどの分析を行い、認知機能の低下等を早期発見することで、早い段階からの社会的処方による健康加齢の実現を目指します。

このほか、昨年8月に、全市民に交付した「やっぷるカード」を活用し、新たな市民サービスの創出や地域課題の解決につなげてまいります。

つながり人口の創出などを目指し、引き続きバーチャルやぶ(メタバース)を実施します。

さらに、電子決裁や電子契約、勤怠管理、固定資産税の課税に係る現況調査、市税の電子納付対象税目の拡大など、行政事務と行政サービスの更なるデジタル化を進めてまいります。

併せて、機器やサービスに不慣れな人のほか、機器等の利用が困難な人や利用しない人も、デジタル化の恩恵を実感していただけるように、高齢者等が身近な場所で相談や学習を行えるデジタルデバイト対策(インターネットやコンピュータを使える人と、そうでない人との間で生じる格差対策。いわゆる情報格差対策)を進めてまいります。

まちの将来像を見据え、人口減少や高齢化などの地域課題を解決するために、マイナンバーカードの高い保有率を誇る養父市は、今後も、デジタルを最大限に活用し、利用者起点で行政のあり方などを見直し、安全安心、快適で豊かな暮らしのできるまちを目指してまいります。

 

このほか、令和6年度の主な施策や新規事業などについて、いくつか説明させていただきます。

 

・こどもを産み育てることを希望する人たちへの支援

こどもを産み育てたい希望を叶えるために、従来から特定不妊治療費、一般不妊治療費の助成を行ってきました。これらの治療の多くは、都市部の医療機関でないとできない場合があり、通院に係る費用や時間など負担が大きいことが課題となっていました。そうした負担を軽減するため、兵庫県と連携する形で、県内医療機関において保険適用外の治療を受ける際の交通費助成を行うことといたしました。引き続き受診される市民の支援に努めてまいります。

 

・互いを尊重し支え合う地域共生社会づくり

認知症は、他の疾患と同様に早期に発見し対応していくことで、症状の軽減や進行を抑えることが可能です。これまでの認知症予防を含めたフレイル対策の取組などに加え、令和6年度、公立八鹿病院において、アルツハイマー型の認知症やがんの早期発見に有効な高精度の検査機器を導入する計画があることから、この取組に対し、市も強力な支援を行うこととしています。

また、高齢者の交通手段が少ないへき地などでの受診機会を確保し、適切な医療を提供するため、令和6年度も引き続き、明延地区にある「あけのべ憩いの家」で医師が常駐しないオンライン診療のための診療所を開設します。

 

・個性を生かした「人」を惹きつける魅力的なまちづくり

八鹿・氷ノ山IC周辺については、北近畿豊岡自動車道が開通し利便性が向上し、交通のアクセス性にも優れ、平坦でまとまった規模の土地を擁していることから、主に若者の移住定住、人口の増加に向けた住宅、商業施設等の立地整備に向けて検討を進めてまいります。

養父地域においては、市内有数の広大な面積を有する旧養父グンゼ跡地を活用し、人口減少・少子高齢化の下でも豊かで多様な働き方、暮らし方ができる新たな空間として「知と創造の拠点」を目指し、過疎化が進む地方におけるまちづくりのモデルケースとなり得る土地利用方法を地域の皆さまと一緒に考え実現してまいります。

大屋地域においては、地域局周辺に公共施設等が比較的集約され、小さな拠点として既に整備されていることから、本拠点を中心に、大屋地域が持つ特性や魅力、観光施設などの地域資源等を有機的に連携する仕組みや地域の活性化などについて、市民や関係団体等との議論を進めてまいります。

関宮地域においては、現在、協議などを進めている関宮小さな拠点計画等検討作成会議や、医療福祉等関係機関、市役所関係部局と連携を取りながら、本拠点が市民にとって「地域のつながりの場」として機能を十分発揮できるように、住民対話を基本に置きながら、早急に基本設計及び実施設計を行い、事業に着手するものといたします。

 

・「人」を中心とした多様で使いやすい公共交通

養父市独自の自家用有償旅客運送である「やぶくる」について、これまで大屋と関宮の地域内のみで運用してまいりましたが、八鹿地域及び養父地域でも特定の施設への移動において利用できるようエリアを拡大し、利便性の向上を図るとともに、利用者の増加につなげていきます。

また、令和5年度には、関宮地域において、利用者の予約に応じて柔軟な運行を行う「デマンド型交通」に係る実証を行いましたが、令和6年度は、自動運転走行バスの運行実験を実施し、養父市の地域特性に見合った持続可能な公共交通モデルの構築を目指します。

さらに、広域的な公共交通の課題解決に取り組むため、鉄道・路線バス・タクシー・ライドシェアなど多様な移動手段の一体的活用を目指す「交通連合」の設立を始めとした但馬地域の公共交通に関する方向性について、更なる議論を深めてまいります。

人が生きていくための必須条件である移動は、基本的人権の一つという認識の下、多様で柔軟、使いやすい公共交通の確保に努めてまいります。

このほか、道路や橋りょうなど社会資本の長寿命化工事も引き続き取り組んでまいります。また、複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉え、総合的かつ多角的な視点から戦略的に地域のインフラをマネジメントする「地域インフラ群再生戦略マネジメント」に取り組みます。

 

・安全で安心、快適な住環境づくりと支援

子育て世帯や若者夫婦世帯の居住の選択肢を広げ、移住・定住による人口増を図るため、民間賃貸集合住宅などの建設事業及び既設の集合住宅のリフォームを支援し、子育て世帯から高齢世帯まで幅広い年齢層が住みよい優良な住宅の供給を促進します。また、女性が希望する住環境の整備に係る事業費を新たな補助要件に加えるとともに、学生を含む単身女性専用の賃貸住宅整備に対する補助を増額するなど、すでに制度化している宅地開発支援事業などとあわせて総合的な住宅整備政策を展開していきます。

人がその地域で安心してこどもを産み育て、生涯を通じて健康で幸せに住み続けることができる、快適なまちづくりを行う上で最も必要で欠くことができない大切な要件として、安心して医療を受けることができる地域医療体制の確保があります。南但馬地域の中核病院である公立八鹿病院及び市立診療所等の医師確保を図り、誰もが安心して暮らせる生活環境を実現するために、引き続きやぶ医者プロジェクト事業を実施いたします。

 

・人と環境に優しい農業ビジョンの取組強化(有機の里づくり)と地域の産業ならびに経済振興

国が策定した「みどりの食料システム戦略」などを踏まえ、養父市においても、令和5年6月に「人と環境にやさしい農業ビジョン」を策定するとともに、「オーガニックビレッジ宣言」を行いました。

令和6年度は、新たに発足した「やぶし有機の里づくり推進協議会」での議論等を踏まえ、土づくりに向けた土壌診断への補助金の創設や有機JAS認証に係る補助金の拡充など、ビジョンの実現に向けた取組を強化してまいります。また、地元産の有機農産物を使った学校給食の提供も鋭意進めてまいります。このほか、農地の担い手として地域計画に位置付けられる見込みの農家等を対象に、農業機械の購入に係る支援を行います。

また、地域住民や集落営農、自治会などが一体となって、農地や農村景観の保全、地域住民の生活支援、コミュニティの維持などの地域課題を解決する新しい枠組みとして、「農村RMО(農村型地域運営組織)」に取り組み、地域で支え合う農山村の理想的な地域づくりを、地域と連携し、強力に進めていきたいと考えています。

このほか、鳥獣害対策の強化として高齢化が進む猟友会の新しい担い手となる新規会員の確保に向けた取組を行います。

人口減少に比例するかのごとく、養父市の産業経済は縮減傾向にあります。人口減少下においても市内総生産額と活力ある経済の維持を図るため、引き続き、商工会や観光協会、金融機関等との連携を強化し、市内企業の支援を精力的に進めます。企業等振興奨励事業を継続するとともに、新たに、養父市版スタートアップインレジデンス事業、ロケ誘致事業などにも取り組みます。

 

・災害に強いまちづくり

消防団員の処遇改善を図るため、各階級の年額報酬額を国の基準額に準じ引き上げるとともに、時代に応じた団員の活動の簡略化や合理化、安全対策の徹底など団員の不安や負担を軽減し、消防団員の確保に努めてまいります。

また、9月1日、養父市立関宮学園を会場に、兵庫県と但馬各市町の合同で「県但馬広域合同防災訓練」が実施されます。同日に市内で毎年行っている一斉避難訓練も実施し、市民の防災意識の高揚を図ります。

また、元日に発生した能登半島地震の被災状況等を参考に、冬期における避難所開設・運営、避難者対応、中山間地域における集落等の長期の孤立等を勘案した、防災対応、避難者対応等についての訓練等も検討いたします。

多大な投資により高い資産価値を有する下水道施設の新たな価値創造に向け、令和4年度から取り組んでいる下水サーベイランス事業については、確実な成果をあげております。今後は、新型コロナウイルスに加えて、新たにインフルエンザウイルスとノロウイルスも検査対象とすることで、更なる感染予防の啓発と市民の意識の高揚を図り、感染の拡大防止につながる取組を進めてまいります。

また、東日本大震災や能登半島地震で倒壊した建物の大半は、昭和56年5月以前の旧耐震基準で建築された古い住宅であり、こうした住宅は養父市にも多く存在します。
近年頻発する大地震や近い将来予想される南海トラフ地震に備えた住宅の耐震設計及び工事による耐震補強を促進するため、耐震診断費や計画策定費、工事費の補助制度の市民啓発を積極的に進めてまいります。

 

・教育の推進と人づくり

まちづくりは人づくりから始まると言われていますが、その基本は教育にあります。

市ではまちづくり計画の実現に向け、令和6年度予算のスローガン(標語)として「市民と共に、幸福な養父市の未来を創る~地域共生社会の実現」を掲げ、各種施策を実施することとしていますが、それらの施策の実施に向けて、根幹となるのは教育です。

今や教育は学校だけで行われるものではなく、また、学校だけでは行うこともできなくなっていることは周知のとおりであります。市民等の様々な協力と参画を得ながら養父市の教育づくりは進められていますが、時代の急速な変化の中で、従来型の地域や家庭の教育力だけでは、対応しきれない側面があることも事実です。

「生きる力を生涯学ぶまち」として、0歳からの一貫した教育と養父市ならではの特色ある教育に市民総がかりで取り組みます。市民全てがその当事者となり、また参画者となることにより、幅広で容量があり深みのある教育環境と教育の場を生み出し、希望に満ちた活力ある養父市の未来を拓き、創る原動力となります。

「総合教育会議」の開催、「こどもセンター」の活動充実など、「教育方針」の実現に向けた教育委員会との連携強化により、まちづくり計画に掲げる「学びがあふれる教育環境」づくりを推進いたします。

「養父市教育のあり方検討委員会」の答申を受けて、学校やこども園・保育所の施設整備(学校施設等長寿命化対策事業)を計画的に進めるとともに、各校区において保護者や地域の方と、こども園・保育所や小・中・義務教育学校の今後のあり方や地域と共にある学校づくりについて協議を重ねてまいります。

子どもたちの大切な身体と心を育むため、安全・安心で環境にも配慮した学校給食を提供するための事業(学校給食管理運営事業等)を行います。

養父市の豊かな自然と多くの先人を輩出してきた学びの文化とつながり、人と人の中で育まれる学ぶ喜びを、全ての市民が味わい、享受することができる教育を推進していきます。

 

・市制20周年・八鹿能100周年記念事業

令和6年度で養父市発足から20周年を迎え、市制施行以降の歩みを振り返り、20周年を祝うとともに、新たな決意をもって、未来に向けた一歩を踏み出す契機として、令和6年7月7日に養父市制20周年記念式典を開催します。

併せて、旧八鹿町において多くの先人たちにより大切に引き継がれ、令和6年に100周年を迎える「八鹿能」について、必要な舞台修繕等を行った上で能公演を再現し、伝統芸能の復興と地域の文化・芸術を次世代に継承してまいります。

以上、令和6年度の主だった施策、新規事業についての説明を終わります。

むすびに

冒頭でもお伝えしましたが、養父市の持続可能なまちの実現には、人口減少、少子化という非常に大きな困難、壁が立ちはだかっています。

壁は、乗り越えるものではなく、壊さなくてはいけません。乗り越えることは壁が残ることとなり、次に続く者への障壁となります。

この壁を壊せる人が、一人、また一人と増えていき、先人が壊した壁を踏み越え、更なる新たな次の壁を壊す人になる。先人の挑戦を見て、後人が次の挑戦者となり、次々と後継者に引き継がれることにより、まちは確実に変わっていくと確信しています。

ふるさとの先人であり、江戸時代(西暦1802年)に「養蚕秘録」を出版し、日本はおろかフランス語やイタリア語にも翻訳され、世界中で読まれ、近代養蚕業の父、日本の海外への技術輸出第1号をつくった人、といわれている上垣守国翁は養蚕秘録の中で次のように述べています。

「豊作は、運よき人も運あしき人も共に上作し、また凶作には、一統(全般)に悪作するといえども、その中に手入れしだいにて、実入りの多少、差別あり。」という言葉です。

この意味は、「米が豊作の年は、誰でも多くの米がとれる。しかし、凶作の年は、努力しているかどうかで米の収量が大きく違う。つまり、収穫量は天の神様が差をつけたものでなく、人の努力の差であることは明確である」ということであり、さらに続いて、「神様や仏様は人の願いを聞いて守ってくださるが、その人が努力をしなければ、神様や仏様でもどうすることもできない」と言っています。

上垣守国の、農民を豊かにし幸福な生活が送れる地域づくりを行うためには、問題解決に向け小さな気づきも見逃さず、危険もかえりみず、苦労や努力を惜しまず、困難や新しいことに果敢に挑戦するその心根と、さらに守国が絶えず心に抱き続けたふるさとへの愛着と誇りが、この偉業を為し得たと考えられます。

養父市民は、この上垣守国の素晴らしい意志と気概を受け継いでいます。私たちは、少子化、人口減少と、将来に向け持続可能な養父市づくりを行う上で大きな困難と対峙していますが、上垣守国から託され受け継ぐ伝統、ふるさとへの愛着と挑戦の心を思い起こし、市民全員が心を一つにすれば、難しいと思われている問題や課題も解決できるものと信じています。

幾多の困難にも、ひるむことなく、諦めることなく、下を向くことなく、悲観的になることなく、ただひたすらに前を向き、常に希望を持ちながら、楽天的に、全力を尽くして何度も何度も果敢に挑戦する。一人で無理なら、仲間と連帯し、絆やつながりによって挑み続ける。こうした粘り強い取組により、高く、強固な壁も、きっと壊すことができるものと信じています。

市制20周年という節目の年に、決意も新たに市民一丸となって、まちづくりに邁進してまいりたいと考えていますので、ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

以上、市政運営に関する所信の一端と、令和6年度当初予算案などについて申し上げました。

 

結びに当たりまして、日頃から広く市民の皆さまの多様なニーズを把握し、地方自治の発展にご尽力されております議員各位に対しまして、心から敬意と感謝を申し上げます。

未来に向け、豊かで快適な地域づくりを行うに当たり、障壁や支障となる課題を解決していくためには、市民や事業者、各種団体、行政、議会など多様な主体が、それぞれの立場を超え、相互に尊重し、理解し合いながら、知恵や工夫を持ち寄り、自由闊達な議論を行い、相反する意見を乗り越え、合意案(より良き解決案)を見いだしていく必要があります。

その過程には、多くの労力と時間を伴いますが、合意形成に向けて着実に、確実に進めていかなければなりません。

今の取組の効果が表れるのは、これから何年も、何十年も先のこととなるかもしれません。逆に今、課題に気づきながら、何もしなければ、積み残される課題はますます肥大化し、それにより、まちは活力を失っていくこととなります。

今を生きるこどもたちのために、更には将来生まれてくるこどもたちのために、未来の全ての市民のために、今を生きる私たちが、責任を持って課題に向き合い、取り組まなければなりません。

今の努力が未来を創るという揺るぎない信念と強い覚悟を持ち、令和6年度の市政運営に当たります。

議員の皆様と市民の皆さまのなお一層のご理解とご協力を心からお願い申し上げ、令和6年度の施政方針といたします。

 

令和6年2月26日

養父市長 広 瀬  栄

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