戊辰年銘大刀を探る

更新日:2019年11月21日

銘文入り鉄刀の発見

戊辰年の銘文

戊辰年の銘文

戊辰年銘大刀(ぼしんねんめいたち)は昭和58年8月3日、箕谷2号墳から出土しました。「戊辰年五月(中)」の6文字が、日本の古墳時代では初めての事例である銅象嵌(どうぞうがん)という技法で刻まれています。

箕谷古墳群は、“つるぎが丘公園”を建設するために、昭和58年5月から発掘調査を始めました。

銘文は、奈良国立文化財研究所(現在は独立行政法人)のX線調査で解読され、昭和59年1月10日に発表されました。銘文発見のニュースは全国紙の一面トップを飾り、大きな話題になりました。

刀身に刻まれ銘文の「戊辰年」は西暦608年が有力と考えられています(668年説もあります)。聖徳太子が活躍していました。小野妹子が第3回遣隋使として中国に渡った年です。戊辰年銘大刀は古墳時代から奈良時代にかけての端境期の資料で、刀剣の製作史だけでなく、日本社会全体の政治の流れを知る極めて貴重な学術資料だと言われています。

鉄刀の出土状況

戊辰年銘大刀図面

戊辰年銘大刀図面

戊辰年銘大刀は箕谷2号墳の石室の奥壁付近で、床面敷石から8センチメートル高い平面で須恵器杯(すえきつき)1点、鉄刀2点(長さ44センチメートル、24センチメートル)と共に出土しました。銘文入り鉄刀は奥壁にほぼ平行して、銘文の面を下にして置かれていました。

鉄刀の形態

鉄刀の現在残っているのは68.8センチメートルですが、柄の部分が欠損していたことから刀身の全長は77センチメートル前後と推定されます。刀身はそりのない直刀で、しのぎを持たない平造りという形態です。腰に鉄刀をつるす「圭頭大刀」(けいとうたち)と呼ばれているものです。

鉄刀の先端の切先は、カッターナイフの先のように斜めに直線状に切断されています。これは「カマス切先」と呼ばれる形態です。鞘金具には、銅に金メッキをした「金銅装」の足物金具と鞘口金具が残っています。鞘は刀身に合わせてそりのないまっすぐな、二枚合わせの木製品で、黒漆をかけて金具でとめました。足物金具は2か所にあって、ひもで帯につり下げるものです。

銘文

刀身の柄(つか)寄りの位置に、切先から柄方向へ縦に「戊辰年五月」 の6文字が刻まれています。1文字は1センチほどです。「戊辰年五」までははっきり判読できます。第5文字は、違和感がありますが、「月」と読めます。第6文字は2画しか残っていないので読めません。しかし「中」の可能性が高いようです。

書風は伸びのある柔らかい筆の勢いで、全体として中国六朝時代の様相を多分に残しています。特に「五」の第3画は六朝時代によくみられる円筆(えんぴつ)を示しています。

戊辰年

銘文(戊)

銘文(戊)

銘文(辰)

銘文(辰)

銘文(年)

銘文(年)

銘文(五)

銘文(五)

戊辰年は、十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)を組み合わせた60年を一周期とする年号で、干支(かんし)といいます。干支は中国から伝わりました。鍔の取り付け方法などから、銘文の「戊辰年」は西暦608年が有効と考えられます。日本製でおそらく西暦608年に飛鳥の地で作られました。ただ西暦668年とする説もあります。

絶対年代を示す年号銘があることから、戊辰年銘大刀は古墳時代後期の年代を判断する基準になります。日本の装飾大刀の年代を研究する貴重な資料です。古墳時代後期から奈良時代にかけて年号の入った刀剣はほかにありません。

五月中

中国や朝鮮で作られた古代の刀剣によく使われる吉祥句(きっしょうく、めでたい言葉)です。旧暦五月は真夏の中日で、火気が最も盛んだとされ、火を神聖視する月です。刀剣は火で鍛えます。繁栄を願った儀仗用刀を作るのに適した月であることから五月中という銘文がしばしば使われます。

象嵌

象嵌(ぞうがん)は、刀身にタガネで溝を刻みこんで、その中に糸状にのばした銅をたたき込んで文字を表現するもので、「糸象嵌」と呼ばれる手法です。純銅に近い銅が使われています。

文字の幅は、横線が0.2~0.3ミリメートル、縦線が0.3~0.4ミリメートルです。刻み込んだ溝の深さは文字幅の3分の1程度で、断面はV字状をしています。

出土例

銘文入り鉄刀出土場所

銘文入り鉄刀出土場所

これまでに日本の古墳から出土した銘文入りの刀剣は5本です。このうち埼玉県稲荷山古墳、熊本県江田船山古墳、島根県岡田山1号墳、千葉県稲荷台1号墳は製作の由来や人名を書いていますが、箕谷2号墳出土の鉄刀は干支年と月だけです。何か古代の特別な出来事によって贈られたものでしょうか。

戊辰年銘大刀は古墳時代初、しかも銅象嵌では日本最古の資料です。さらに年号がある刀剣では稲荷山鉄剣の辛亥年(しんがいねん)に次ぐ貴重なものです。

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