造り物は街角の美術館

更新日:2019年11月25日

1)養父市の「造り物」とは

八鹿の造り物

養父市の夏祭りには、八鹿地区と広谷地区で毎年約一か月をかけて制作された「造り物」が展示されています。作り手の人たちは「ダシ」と呼んでいます。造り物の最盛期には、八鹿では、駅前地区から栄町まで、11地区で取り組まれていました。平成19年は、大森・諏訪町・下町・宮町・仲町・新町・栄町・天子・京口で作られました。また、広谷では、2組・4組・6組・8組・10組・12組・14組の7地区で取り組まれました。

但馬地域の造り物は祭りの賑やかしと商店の客呼びをねらいとして始まったといわれています。

記録では、明治9年5月23日、生野鉱山本部の落成式に工部卿の伊藤博文を迎え、生野で造り物を作ってお祝いしています。

造り物の材料は、家具・調度品のほか、近くの山の木や竹、あるいは廃物を利用していました。しかし、昭和40年頃から、かばん材料・フィルム材料・はし・建具・金具・自動車部品などの小さい材料を使用し、素材本来の持ち味を生かしながらその年に話題になった建物や人気者を作っています。

2)但馬は四大「造り物」地帯の一つ

造り物の分布図

全国「造り物」ガイドをみると、約50か所で造り物が作られており、その中に4か所のまとまった中心地があります。その4か所は、兵庫県養父市を中心にした但馬付近、滋賀県米原市などの近江の北東部、島根県出雲市平田町から鳥取県西伯郡南部町付近、熊本県宇土市から大分県別府市付近などです。

これらの地域を全国の四大造り物地帯と提案しています。近江から越前は「つくりもん」、但馬から京都・大阪は「造り物」、島根・鳥取は「一式飾り」、熊本・大分は「見立て細工」と呼ぶなど、地方によって呼び方が異なり、それは伝統の違いとなっています。

熊本県山都町の造り物

この地域以外にも、富山県高岡市福岡町では「つくりもんまつり」が開かれています。 大阪市中央区の陶器神社では「陶器皿作り人形」が奉納されています。京都西陣の笹屋町では西陣織の帯や絹糸で人間の大きさの造り物人形を作っています。

熊本県上益城郡山都町では「八朔祭」と呼び、ネットと竹で骨組みを作ってススキや松の樹皮、あるいは和紙などで5mにもなるサイやゴリラなどを作って、町内を引き回します。 石川県白山市鶴来の「ほうらい祭り」では、5メートルほどの武者の造り物をもこしとして担いでいます。造り物は街角に飾るものと、それを引いて町を練り歩くタイプがあります。 

3)造り物のキーワード

島根県出雲市平田町の造り物

全国の造り物をみると三つの共通する特徴があります。「夏祭り」「一式飾り」「見立て細工」というキーワードです。秋祭りや正月の例もありますが、多くは夏祭りの行事です。「造り物」はもともと夏祭りにおける神様への捧げものであり、作った人に功徳が授かるだけでなく、見物人にも悪疫退散の御利益を授けるともいわれています。夜店が並ぶ夏祭りにおける見世物、賑わいの一つです。

島根県出雲市平田町の造り物

島根県出雲市平田町では、陶器を使った一式飾りが盛んで、桃太郎や大蛇などを表現しています。中にはザルやカゴなどの竹物一式、仏具一式などもあります。一式飾りは、一種類の材料を形を壊さずにそのまま組み合わせた見立て細工です。このため祭りのあとには解体して、もう一度生活に利用するのが特徴です。

八鹿でも漆器一式や貝殻などの一式を使った例も過去にはありますが、多くは金具や竹などの一種類の材料を部品として組み合わせたものが主流でした。昭和27年宮町区ではお椀や漆器や調度品を使ってくみ上げた武者人形を作りました。

4)但馬の「造り物」街道

但馬では、養父市八鹿や、養父市広谷、豊岡市日高をはじめ、朝来市和田山、朝来市山東町、さらに隣接する福知山市夜久野町、丹波市青垣町、丹波市氷上町で、夏祭りに造り物が出されています。詳細な調査は行われていませんが、全国的でも約50か所しか伝わってない民俗芸能です。さらに京都や大阪では単発的な催しでしか継承されていません。但馬付近はベルト地帯と呼べるほど密集しています。造り物が活発に作られている但馬の造り物街道は、夏祭りを彩る全国に誇ることのできる財産です。造り物の中に日本の夏祭りにおける主人公の姿を見ることができます。造り物は夏祭りに百年以上も続いてきた街角の美術館です。

5)ルーツを探る

八鹿の造り物

造り物はもともと江戸時代後期の1820年代に大阪で流行した細工見世物の伝統を受け継いだ芸能です。明治以降に西洋から輸入した「近代美術」に対して、日本で成熟した江戸時代の「美術」だといわれています。竹籠を組み合わせて作った7メートルを超える武者像、昆布で作った猪、瀬戸物の皿と茶碗で作る牛若丸と弁慶など、神社の門前に作られた見世物小屋で見物人の人気を得ました。

木下直之さんは、「江戸時代の後半には、大阪天満宮や御津八幡宮の祭礼で、日用品を材料にした造り物が境内や氏地を華やかに飾ります。日用生活とは無縁の物語の一場面や登場人物に見立てるのでした。大阪では、現在、かろうじで7月の瀬戸物祭りに瀬戸物人形が作られるのみとなってしまいました。むしろ西日本各地に残る造り物が、かつての大阪の文化を伝えています」と話しています。

6)「造り物の未来」

八鹿の造り物

全国の事例を見ると、5メートルを超えるような大形のものを作る事例、一式飾りのように陶器をそのまま利用して作る事例、練り込み行列のように造り物を街中で引き回す事例もありました。もともと「造り物」の姿は一形式ではありません。

それでは養父市の「造り物」の伝統とは何でしょうか。地元にふさわしいあり方とは何でしょうか。栄町区ではペアの吹き抜けに4メートルを超える大型作品が作られました。平成2年にティラノサウルス、平成3年に龍のシェンロン、平成6年のガンダムなどです。超大作のゴリラ(熊本県上益城郡山都町)の「造り物」が町を練り歩く姿を見ると、巨大な「造り物」を使って、祭りに活用するだけでなく、町の入り口にモニュメントとしてしばらく展示する事例も全国的にはあります。伝統を知ってもらおうと子供たちに造り物作りを体験してもらう試みもあります。

夏祭りも間近です。今年はどんな造り物が展示されるのでしょうか。「造り物」は作る者と見る者の間で発想の豊かさやアイデア、さらに技術を見抜くことに面白さがあります。

この記事に関するお問い合わせ先

歴史文化財課
〒667-1105
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