造り物の解説
1)日本の四大造り物地帯
全国造り物ガイド(参考文献1)をみると、全国には多くの町で現在も造り物を制作しています。全国的な視野で造り物の盛んな地域を分類すると四地域あります。兵庫県養父市を中心とした但馬付近、滋賀県米原市などの琵琶湖北東部付近、島根県出雲市平田町から鳥取県西伯郡南部町付近、熊本県宇土市から大分県別府市付近などです。これを私たちは「日本の四大造り物地帯」と呼んでいます。
造り物の呼び方は地域によって多少異なっています。近江から越前は「つくりもん」、但馬から京都・大阪は「造り物」、島根・鳥取は「一式飾り」、熊本・大分は「見立て細工」と呼んでいます。同じ造り物でもそのあり方には多様性があります。
この四ヵ所の中心地帯以外にも富山県高岡市福岡町の「つくりもんまつり」などが盛大に行われています。また、大阪市中央区陶器神社には「陶器皿作り人形」があります。京都西陣の笹屋町の造り物では西陣織の帯や絹糸で人間の大きさの人形を作ります。しかし、現在の京都・大阪では、造り物は一ヵ所程度しか受け継がれていないようです。つまり、現在でも造り物の伝統が密集しているのは、日本四大造り物地帯と呼んだ地域に限られています。近畿地方では、但馬地域と近江地域だけでみられる貴重な伝統芸能となっています。
全国の造り物をみると三つの共通する特徴があります。「一式飾り」「見立て細工」「神社の夏祭り」というキーワードです。
島根県出雲市平田町では陶器一式を使って桃太郎などの物語を表現した見立て細工を作ります。寛政5年(1793)悪疫退散を祈って天満宮の神幸式に奉納したのが始まりです。出雲市の本陣資料館に展示してあるほか、隣接して一式飾資料館もあります。 養父市でも漆器一式や貝殻一式などを使った例もありますが、多くは金具や竹などを材料にしたものが主流です。精巧なものを作ることに力点を置いたために、同じジャンルの材料を部品として利用しています。このため見立て細工に力点を置いたものと、模型のような精巧な表現を追求したという二種類の造り物が存在しています。
2)ウダツが上がる養父市と京都西陣
養父市の造り物にも、漆器一式や貝殻一式を使った伝統的な古式物がありました。「マカロニで造ったナポリタン号がよかった」(昭和62年栄町)「ペアの一階から二階にかけての吹き抜けを昇る龍は日本最大の造り物だ」(平成3年栄町)という声もあります。
造り物は、夏祭りにおける神様への捧げものであり、作った人に功徳が授かり、見た人にも悪疫退散の御利益を授けるものとして始まりました。江戸時代の庶民信仰には、逆修善根という思想が根付いています。
近畿地方で造り物が盛んなところはいずれも商人の町です。そして但馬、近江北東部、京都西陣などの商家の屋根には本ウダツが上がっていました。養父市は、もともと養蚕が盛んで、八鹿の町は繭の集積地として栄えました。文久3年(1863)に八鹿商人の中屋庄兵衛は、丹後ちりめんの原料として宮津に売っていた生糸を、京都西陣に変更して大きな利益をえました。
八鹿や広谷の商家に立ち並ぶ本ウダツの住居は、生糸の売買を通じて知った京都西陣の生活文化を、養父市の商人が取り入れたのが始まりだと仮説を立てています。つまり京都文化の象徴であるウダツを養父市の商人が自宅にも上げた。そうした文化が夏祭りに造り物を作る伝統にもつながったのではないかというものです。養父市の造り物は、100年以上も続く伝統芸能です。但馬の造り物のルーツは、上方文化にあると考えて間違いないでしょう。
ウダツの上がる住居は、養父市全域に広がっているだけでなく、養父市は但馬の中でも最もウダツ密度が高い地域です。市内には本ウダツを上げる住居が74棟、袖ウダツを上げる住居が69棟もあります。
3)細工見世物
造り物は、江戸時代後期にあたる文化文政の1820年に流行した細工見世物の伝統を受け継いだ「美術」だといいます。木下直之さんは「細工見世物」は、1820年代に江戸や大阪で俄然盛んになった。いずれも竹籠や桶や貝殻や昆布など、身近な造形を楽しむ見立て細工だった。笑いや風刺が重要だった。興行として成り立ったのは、つくりものを祭礼から切り離し、普段でもみたい、プロの技に触れたいという、現代人が美術館に寄せるような期待に応えたからだろう。貝細工小屋のたたずまいは、現代のギャラリーと見間違いそうだ」(参考文献2)と指摘しています。
養父市の造り物は「ダシ」といい、「出し」という字を書きます。街角の出し物という意味でしょうか。いずれにしても八鹿をはじめ、広谷・日高・和田山・山東・夜久野・氷上・青垣などの町で、夏祭りに造り物が出されています。こうした造り物は、 我が国で始まってから200年の伝統があり、日本の祭りの一つとして大変貴重なものです。
夏祭りには、八鹿と広谷の町で、いくつもの造り物が展示されます。但馬各地の夏祭りでは、1年に2日間だけ造り物を展示する街角ギャラリーが見物客を楽しませています。
4)おわりに
養父市には2か所の兵庫県景観形成地区があります。八鹿地区はウダツの上がる町屋をテーマにしています。大杉地区は三階建て養蚕農家をテーマにした町づくりを進めています。大正時代にはウダツをもつ商家や農家、さらには三階建て養蚕農家が市内に多く建てられました。そうした意味では、養父市の景観は大正時代に原形が形づくられたと言えます。造り物も明治時代に始まって大正から昭和初期に大変賑わいました。造り物の町という意味で養父市を見直してみると、私たちは見慣れた夏祭りの造り物が、養父市の貴重な宝物であることが分かります。
造り物は江戸時代に始まった伝統芸能と呼ぶべき美術作品です。多くの市民に支持されて現在まで造り物が続いています。造り物の歴史的、文化的な価値を多くの人に知っていただき、実際に見て楽しんでいただきたいと思います。
参考文献
1)朝日新聞社 『アサヒグラフ』1997年11月28日
2)ポーラ文化研究所 『特集つくりものis78号』 1997年12月10日
3)木下直之『 美術という見世物』ちくま学芸文書1999年
4)川添裕『 江戸の見世物』岩波新書 2000年
註
1)平成15年に平田市教育委員会から平田一式飾り、および造り物の関係資料を多く頂戴しました。
2)インターネットで造り物や一式飾りなどを検索して、各地の造り物をご覧ください。
歴史文化財課
〒667-1105
養父市関宮613-6
電話番号:079-661-9042
ファックス番号:079-667-2277
更新日:2019年11月25日